え!抜けちゃうの?!虫歯で治療した歯の恐怖の末路。歯を守る為にできること。
2019年9月30日
目次
京都大学の山中教授が「IPS細胞」を発見されてから、日本では多くの分野で「IPS細胞」を使った再生医療の研究がなされています。
歯の再生も例外ではなく、国立研究開発法人理化学研究所の辻孝先生の研究チームは、マウスの実験で歯の再生に成功したと報告しています。しかし、ヒトへの応用までにはまだまだ時間がかかるようです。
『虫歯は一度治療すればもう大丈夫?!』
そんなことを思っていらっしゃる方も、少なくないと思います。
今回は、虫歯になった歯がその後どのような運命にさらされるかをご説明していきたいと思います。
歯の構造
歯の断面図
- エナメル質(えなめるしつ)…体の中で一番硬い組織、歯の一番表面を覆っていて、その内部にある象牙質へのあらゆる刺激を遮断している。
- 象牙質(ぞうげしつ)…エナメル質の下に存在する骨と同等の硬さの組織、象牙細管と呼ばれる小さな管で歯髄と連絡している。
- 歯髄(しずい)…歯の中にある神経組織。神経を栄養するために動脈・静脈が入りこんでいる。虫歯や知覚過敏で歯がしみたりするのはこの神経組織が傷んでいたりすることが原因です。
歯がこのような構造であることは、ご存知でしたか?3~4cm程の小さなボディーの中に、歯を守るための様々な機能を搭載しているわけです。
さて、人体の中で最も固いエナメル質で覆われている歯は、どのようにして虫歯になるのでしょうか?
次の項ではこの歯が虫歯になるメカニズムついて簡単に説明したいと思います。
虫歯の進行
虫歯の進行
CO:初期う蝕(しょきうしょく)
虫歯は歯の一番表面のエナメル質が、虫歯菌によって溶かされることからはじまります。
虫歯菌(主にミュータンス菌)は、歯の表面にべったりとくっつき酸を産生します。その酸により歯の表面が溶けるのですが、その溶けた歯は、唾液中のカルシウムを取り込みまた固い表面を取り戻そうとします。これを再石灰化と言います。
初期の虫歯は、環境がいいとこの再石灰化により元の固いエナメル質を取り戻せるのです。
C1:エナメル質う蝕(えなめるしつうしょく)
虫歯菌の産生した酸がエナメル質を溶かし続け、再石灰化が追いつかなくなると、再生不可能な穴が出来てきます。こうなると虫歯菌たちが、どんどん歯の内部へと侵入して穴を広げていくのです。
ここまで来ると進行は制御することは出来ても、自然と穴が塞がることは絶対にありません。
この段階では、全く痛みが無いので気付かないのですが歯の表面がザラザラしてきたり、歯と歯の間にフロスを通すとフロスが切れたりするようになります。ちなみにこの状態でも削らずに虫歯の進行を抑制することは可能です。
C2:象牙質う蝕(ぞうげしつうしょく)
やがて、エナメル質を超えてその下の象牙質へと掘り進み、虫歯菌たちは固い岩盤を突破したドリルのように、一気に象牙質を溶かしはじめます。これは、象牙質がエナメル質に比べて柔らかいことが原因です。
ここまで虫歯が進行すると、冷たいものや甘いものがしみたりといった症状が出現してきます。治療をしないといけない状態で、虫歯の進行を止めることは難しいです。
裏を返せば、CO、C1までのエナメル質までの虫歯は、清掃状態・フッ素・定期的なチェックで進行を抑制して削ることなく管理することは可能なのです。
C3:歯髄炎(しずいえん)
それから虫歯菌たちは、象牙質の下の歯髄へと到達します。この歯髄にはもう固い組織はありませんので、こうなると虫歯菌の天下!やつらは剥き出しの歯の神経を攻撃しはじめます。
ここまで進行してしまうと、ズキズキとした激しい痛みを引き起こします。
あぁ、想像しただけで痛いです…。歯の神経を取る治療が必要です、そのあと比較的大きな金属の被せ物(いわゆる差し歯)になることが多いです。
C4:根尖性歯周炎(こんせんせいししゅうえん)
「ん?昨日まで激痛だったけど今日は痛くないぞ。」
「こりゃ、虫歯治ったな。」
そんなことは、絶対にないです!!
虫歯菌のせいで、歯の中の神経が死んでしまって”痛み”という信号を出せなくなったので痛くないのです。そう!むしろ虫歯は悪化しています。
最終的に虫歯菌が歯の中で増え続け、歯の付け根まで達すると噛むと痛いといった症状が出現します。さらに放置すると顎の骨が腫れ上がってしまうこともあります。
最悪の場合には、死亡例の報告もある恐ろしい感染症を引き起こすのです。これほど進行してしまうと歯を抜かなければならないことも多々あります。
『虫歯に自然治癒はありえません』
このようにして、虫歯は進行していきます。
治療の経験がある方はわかると思いますが、基本的に虫歯を削って埋めるのが基本です。虫歯の大きさによっては、歯の中の神経をとって大きな金属の被せ物になる事もあります。
さて、この人工物たちはいつまでその状態を保つことができるのでしょうか?
次の項では治療した歯のその後についてお話ししたいと思います。
『治療した歯の経過』
古い文献ですが、「歯科修復物の使用年数に関する疫学調査」(森田ら.1995)の中で虫歯の治療の耐久年数について次のような報告があります。
- レジン:白いプラスチックの詰め物…5.2年
- インレー:小さな銀歯…5.4年
- クラウン:被せ物(差し歯)…7.1年
通常の治療の流れの中では、レジン→インレー→クラウンと虫歯の大きさ・進行により治療の選択肢が変わっていきます。
つまり、レジンよりクラウンの方がより進行した虫歯に対する治療ということになります。
これらのことを総合すると、一度治療を施した歯のライフサイクルは、次の図のような経過をたどることになります。
歯のライフサイクル
恐ろしい結果ではないでしょうか?
6歳で生えた永久歯が、7歳で小さな虫歯になると、45歳で抜歯になるという事実!
疫学調査からのデータを繋ぎ合わせると、このような結果になってしまいます。
あくまで参考のデータですが、実際に治療に従事している人間として、当てはまる方は比較的多いと思います。いや、むしろ歯を失う傾向にある方は、これより悪いライフサイクルをたどっているように感じます。
引用元:長崎大学 新庄教授の研究より 一部改変
前回のコラムの中でもご紹介したグラフでありますが、その答えがここにあると思います。歯を失う傾向にある方は、やはり症状があるときにだけ受診するトラブル来院型です。
残念ながら過去は変えることは出来ません。しかし、これからは変えることができます。
事実、私も数本のC2レベルの本来は削るべき虫歯と共存しています。
それは、私が完璧に自分の口の中を理解して日々の清掃を怠らないことと、プロフェッショナルケアを定期的に受診しているからこそできることなのです。
『削る』から『守る』へ
今回の内容は、専門用語が多く難しい内容だったと思います。
しかし、虫歯という敵を知るためには必要な知識です。少しずつ噛み砕きながら、吸収してみてくださいね。
そして、自分の口の中の状態を把握して、最小限の治療と最適なメンテナンスプログラムでいい状態を維持していきましょう。
一度削った歯は、必ず悪くなります。
痛みが無いからといって定期検診を怠ると、知らないうちに歯を抜かなければならない状況になっていたなんてことが起こることも考えられます。
6歳で虫歯になった歯が、12歳で抜歯になってしまったという子を見たことがあります。もちろん、トラブル来院型の子でした。そんな人が一人でも少なくなって欲しい。
『削らない』『再治療にならない』ためには、プロの助けが必要です。
ぜひ、かかりつけ歯科医を見つけて、虫歯の進行しないお口の環境づくりをされてください。
アートな歯医者のちょっと真面目な話、これも読んで欲しい!!!
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